09月15日 ボルボ240 ― 良いところ悪いところ

ボルボ240というクルマがあります。
独特の雰囲気をもったクルマで、当社でも常時何台か展示していますし、人気の方も根強いものがあって、中古車の価格帯も他のモデルと比べると、かなり高めで推移しています。

すでに1993年で生産を終了しているモデルで、最新型でも販売されてからすでに10年が経過してるクルマですから、その信頼性に関して、店頭で、あるいはEメールでよくお問い合わせをいただきます。

今回は、このボルボ240という、ちょっとカルトな気配を持ったクルマに関して、その販売に携わる(そのほとんどがステーションワゴンですが)私たちが日頃感じていることを、まとめてみたいと思います。

よくいただくご質問の代表的な例が、下記のようなものです。

『ボルボ240の購入を考えていますが、はじめての外車で、しかもとても古い車なので不安です。良いところ、悪いところをできるだけ正直に教えてください。』

最も素朴で、かつ的を得たご質問だと思います。
240のご購入を考えておられる方、また、とても好きな車なんだけどファミリーカーには無理かなあ、やっぱり940や850のほうが壊れないかなあと、迷っておられる方のほとんどが、知りたいところでしょう。

まずはこのクルマのヒストリーから。

この240シリーズが最初に発表されたのは1974年、日本では、トヨタパブリカや日産チェリー、初代シビックなどが走っていた時代です。 発売当初はボルボの文法に則って、2ドアモデルは242、4ドアモデルは244、ステーションワゴンは245と呼ばれていたこのシリーズが(最初の数字がシリーズ名、2番目の数字がシリンダーの数、最期の数字がドアの数です)、240という名称に統一されたのが、1983年でした。

エンジンは発売当初からの、FR・直列4気筒・SOHCという基本レイアウトを大きく変更することなく、最終型の1993モデルまで継続されましたが、主力エンジンは時代のニーズに応じて、B21(2127cc)から、B23(2315cc)へ、そして1985年にはB230(2383cc)へと変化しました。
最後のB230というエンジンは、モディファイを繰り返しながら、740や940にも採用され、最終的には940の生産が終了する1997年まで、FRボルボの主力エンジンとして活躍したものです。
本国では、260シリーズに使われた、V6・OHC・2848ccのB27Eや、D24という直列6気筒のディーゼルエンジン、などのバリエーションが存在していますし、日本仕様でも、ツーリングカーレースで好成績を収め「FLYING BRICK(空飛ぶレンガ)」として有名になった240ターボには、B21のターボエンジンが搭載されていました

デザイン的には、発表時には丸型2灯だったヘッドライトが、その後シールドタイプの角型4灯になり、1987年以降は、現在最もおなじみの角型2灯のタイプになりましたが(日本仕様)、基本的なところはほとんど変わらずに19年間生産が続けられましたから、やはり基本設計・デザインがきっちりしていたのではないでしょうか。
また、ボルボ=ワゴンというイメージを形成したのもこのモデルの力が大きかったと思います。
1992年後期からの最終モデルでは、エアバッグやABSなどの安全装備もいち早く導入され、また、エンジンもパワーアップされて940と同じ130PSになりました。 エアコンのガスもこの年からノンフロン型のR134仕様に改良されています。
「スモールウインドウ」と呼ばれている240ワゴンがありますが、これは1989年以前のリアゲートの窓が小さなタイプの240ワゴンのことです。 このタイプの窓は、水が溜まりやすいということもあって、1990年には形状変更があったのですが、デザイン的にレトロな雰囲気がありますから、珍重されたりもしているようです。



さて本題の、良いところ悪いところということですが、

全般的にいうと、240が他の車と比べて極端に弱かったり壊れやすかったりということは、それほど多くはないと思いますが、その中でも当社でクレームとして取扱うことが比較的多いトラブルをいくつかご紹介しておきます。

1 スイッチ・リレー・ヒューズなどのトラブル
 
いわゆる電気系のトラブルというもので、中でも当社のクレームで一番多いのがパワーウインドウ・スイッチの不良、窓が上がらない、下がらないという症状がその典型です。 モーターそのものが壊れるということはほとんどありませんから、おそらくスイッチの精度がやや低いのではないかと思います。スイッチは単体(¥6410)で販売されていますので、これを交換すれば解消します。 

電気的な装置をコントロールするリレーのトラブルもよくあります。
中でも一番多いのが、オーバードライブのリレー。 240のATは、3速+オーバードライブという設定で、シフトレバーについているボタンスイッチで、このオーバードライブ(4速)のON・OFFを制御します。 オーバードライブをOFFにして3速モードで走行すると、メーターパネルの矢印マークのライトが点灯します。リレーが壊れると、いくらスイッチを操作しても、この矢印が消えない(=4速に入らない)といった症状がでます。
また、燃料ポンプのリレーがやられると、燃料が送られなくなって、セルモーターが回ってもエンジンがかからない、といったことになってしまいます。
リレーのトラブルの大半が、電極を固定しているハンダの剥離だと思いますが、分解修理は手間がかかりすぎますし、それほど高価な部品ではないので(オーバードライブリレーで\6760)、基本的には交換で対処しています。
このスイッチとリレーのトラブルは240に限らず、940や850でも同じ傾向がありますので、ボルボ(あるいは欧州車全体)の傾向といえるのかもしれません。

また、240のヒューズは、今では珍しいイモムシ型のものを採用しています。 このヒューズは、今のヒューズのようなクリップ式ではなく、ヒューズの両端をはさみ込むカタチになっていますので、どうしても接点が錆びやすく、接触不良が起こり、それにかかわる電気系の装置に不具合が発生することがあります。 ヒューズを交換して、接点をペーパーで磨けばすぐに解消するのですが、手間がかかることではあります。

2 ECUのセンサーのトラブル

症状としては、アイドリングが安定しない、エンジンが冷えているときかかりが悪い、信号待ちのときストールする、といったことで、どれも燃料調整がうまくできていないときに発生する現象で、これもある意味電気系のトラブルといえるのかもしれませんが、240に比較的多いトラブルでしょう。

フロントグリルが角2灯に変更された1987年から、ボルボの燃料調整は、それまでのジェトロシステムに変りコンピュータシステムになっています。(どちらもBOSCHのシステムですが)
いわゆるE・C・U (エンジン・コントロール・ユニット)と呼ばれるのもがそれです。

上記のようなトラブルのほとんどの場合、このECUに情報をインプットしているセンサー類の不具合が原因になっています。

このセンサーは、気温などの周囲の環境やクルマの状態を正確にECUに伝えるためにクルマのあちこちに張り巡らされているもので、 冷却水の水温を検知する水温センサー(これで外気が低いか高いかわかります。寒い時は濃い目の、暑い時は吸い目の混合気に調整しなければなりません。コールドスタート時の不具合はこれが悪いことが多いです。)、一番シリンダーのピストンの位置を知らせる、クランク角センサー(いちばん最初に点火される一番シリンダーが下がっていれば濃い目、上にあがっていれば空間が狭くなるので薄い目の燃料が必要です)、エアクリーナーを通ってきた空気の状態を検知するエアフロメーター、排気ガスに含まれる酸素の量を検知して燃料がうまく燃えているかどうかを知らせるO2センサー、アクセルペダルの位置を知らせるスロットルポジションセンサーなどがあります。
ECUはこれらセンサーからの情報を総合的に計算し、最も適していると思われる燃料と空気の割合を、インジェクターにアウトプットしていますから、このセンサーがボケて、まちがった情報がインプットされれば、アイドリング時には当然なんらかの不具合が発生します。

処方箋は、センサーの交換しかありません。
どのセンサーが悪いかという判断は、コンピュータの自己診断機能(ダイアグノーシス)を利用して行います。

アイドリングの不安定やエンストは、センサー不良だけでなく、ブレーキマスターバック(倍力装置)の不具合(エアーの吸い込み)によって発生することもあります。 これも240(940も)の弱点のひとつといってもいいのかもしれません。

3 冷却系のトラブル

940や850などの設計が比較的新しい車と根本的に違うのがこれだと思います。
240のラジエター冷却ファンは、電動モーターではなく、クランクの回転を利用して回っています。ですから、エンジンの回転があがらないと冷却能力が低下する仕組になっています。 これが、240はオーバーヒートする、というウワサの最大の理由で、まあ弱点といえば弱点ではありますが、ほとんどの場合、これにラジエターの経年消耗が重なって、結果的に水温計の針が上がるということになる車が多いようです。 また、ラジエターの前側についている補助の電動ファン(水温やエアコンのガス圧が上がると自動的に回る)やそのスイッチが壊れていることもたまにあります。 
実は、ラジエターさえしっかりしていれば、めったなことでヒートするクルマではないのですが、実例としてヒートするクルマもありますので、不安をもっていらっしゃる方が多いのもよくわかります。

処方箋は、ラジエターの3層化(コア増し)。 これをやっておけばまず大丈夫だと思います。
裏ワザですが、ファンをもうひとつ取り付ける、補助ファンをエアコンを入れた時に常時回るように配線を変更する、プーリーの径を小さくしてメインファンの回転数を上げてやる、といった手もあります。

この冷却系に関しては、実は、何よりもラジエターを常にきれいな状態にしておく、ということがいちばんのメンテナンスかもしれません。

4 リアゲートヒンジの配線

リアウィンドウの熱線やワイパー、ハイマウントストップランプなどが作動しなくなるというクレームもよくあります。
ご存知のように、240の場合リアゲートの開閉を行う「ヒンジ」が独特の形状ですので、この中に収納されている配線が劣化し、切れてしまうことによって起こる現象です。
これは240ワゴンならではのトラブルですね。

5 エアコンディショナー

ウワサではよく壊れる、弱いと言われているエアコンですが、実際にはほとんどが部品の寿命といえるもので、他の車と比べて壊れやすいという実感は、私たちにはあまりありません。
やはり寒い国のクルマですから、確かに冷え方は弱く、国産車のような急速冷房は不得手ですが、しっかりと整備されたエアコンであれば、走っていてそれほど困ることは多くないように思います。正規ディーラー車だとコンプレッサーも日本製のものを使っていますし、エバポレーターや高圧ホースなどの部品の耐久性も低くはないと思います。
これもやはり大半は、部品の消耗・寿命の問題のように思います。

6 ヘッドライト反射板のサビ

これは明らかにこのクルマの弱点といえるでしょう。
当社に入庫してくる240の半分以上で、この反射板のサビが見られます。 おそらくレンズと本体の密封性が悪いのが最大の原因だと思います。以前はヘッドライトをASSYで交換するしかなかったのですが、最近は反射板のみで部品が供給されていますので(\12000)、対応は楽になりました。

上記のようなことが代表的な弱点といえるところなんですが、現実にこの車を販売する私たちからすると、最も重要なポイントは、最新のモデル(GLE・クラシック・タックといったグレードです)でも、新車から10年、ほとんどのクルマが10年以上経過しているということではないかと感じています。

ボルボに限らず、ヨーロッパのクルマは、ユーザーが耐久性に対してキビシイ眼をもっていますので、エンジンやボディーといった主要な部分に関しては10年・10万kmでダメになるといったことはまずありません。 中でもボルボは、その耐久性や実用性が売り物の、「質実剛健」を絵に描いたようなメーカーですから(240は「砲台を忘れた戦車」、940は「ヘジンゲン(工場の地名)のトラクター」と、現地の人には揶揄されているそうです)、エンジンもトランスミッションもこれくらいの年数や走行距離で、壊れてしまうということは考えにくいと思います。
ただ、その他の補機類(ラジエターなどの冷却システム、コンプレッサーやエバポレーターなどのエアコンのシステム、ステアリングラックなどのステアリングシステム、ブレーキ、足回り 等々)は、もちろんそれまでの使用状態や整備歴にもよりますが、10年を超えると経年消耗が進み、ひとつひとつ部品の寿命がきます。
当社でお預かりする240、また、納車前に整備をする240のトラブルの大半は、この経年消耗による部品寿命が尽きた事によって起こる不具合です。

ですから、240の購入を考えるということは、新車から10年以上経った輸入車と、どのように付き合っていくか、ということを考えることが、まず大前提になります。

では、どのようにその旧いクルマ(240)と付き合っていくか、ということなんですが、
まずは、やはり本当に気に入った車を選ぶ、という原点からスタートする以外にないような気がします。
本当に愛着を感じる車であれば、そのひとつひとつの手入れ(メンテナンス)を苦にせずに行うことができるからです。

当社でお買い上げいただいたクルマに関しては、基本的な消耗品はすべて交換して納車していますので、あとは、乗りながら、悪くなったところをひとつひとつ手を入れていくんだという気持ちを持つことが大切だと思います。

あとは、あまり「完璧」を求めないということでしょうか。
人間と同じように、100%の中古車というのはあり得ませんし、ましてそれなりの年月の経った車ですから、仕上げていくというよりも、どのように折り合いをつけるかということのほうが大事になってきます。
しばらく乗っていれば、その車の様子がだんだんわかってきます。 車のほうもまたそのオーナーの乗り方を感じていきます。 そのうちこいつはこんなクセがあるなあとか、今日は調子の悪いところがありそうだなあ、といったことを身体で感じ取れるようになってきます。
その流れの中で、メンテナンスに関しても、この部分は仕方がないけれど、ここはしっかり直していこう、ここはそのうち手を入れるにしても、今はだましだまし乗っておこう、といったようなことがだんだん見えてきます。
その車との付き合い方がだんだん解ってくるように、必ず、なります。
購入された当初は、普通の状態の判断がなかなかつきにくいので、ナーバスになりがちですが、愛着を持った車は必ず馴染んできますので、ゆったりと構えて、つきあって下さい。

ご購入にあたっては、やはり素材をしっかり吟味する、あるいは吟味された素材を置いてあるショップで選ぶ、ということに尽きるのではないでしょうか。

維持費に関しては、こちら ― 維持費について をご参考に。


240の良いところは、それぞれの方がそれぞれのイメージをお持ちなのではないかと思います。

メカニカルなところでいうならば、ボディやエンジンといったクルマの心臓部が頑丈であるということ、見た目よりもボディが軽いということ(ワゴンモデルで車輌重量は1390kgです)、機能性(パッケージング)が素晴らしいこと等々いくつかの美点があります。また、その安全性に関しても定評のあるところです。

そしてやはり何よりも、デザイン(基本設計も含めた)の魅力が大きいのではないでしょうか。
いかにもボルボらしい、洗練には程遠い無骨なカタチ、野暮ったさと表裏一体の安心感、そして70年代の香りを色濃く漂わせるレトロな雰囲気。 そういったものに惹かれる方もけっこう多いように思います。

個人的には遅いことがこのクルマのいちばんのポイントかなあという気がしています。
緩めの足回り、ダッシュの効かないふわっとした加速、この車に乗っていると生活のスピードがゆったりとなっていくような気がします。 車の方から、「そんなに急がなくてもいいじゃない」とでもいわれているようです。
ボルボ240は、まさに「スローライフ」な車の代表格ともいえるのではないでしょうか。

世の中のいろいろは新しく進化するほど便利さは向上していきます。
でもモノの良さを見渡してみると、新しいほどいいわけではありません。 また、古いほどいいとも限りません。
車にしろ、他のものにしろ、それぞれいちばん良かったものの時代があるように思います。
240という車が、今も大事にされるのは、いちばん良かった時代の車 ― それを造っている人たちの熱意やプライドを感じる車だからかもしれません。